ルイヴィトンタイガバッグ
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null わたしは何の感覚もないまま、ただ夕日を眺めるしかなかった。  あの時、わたしは助けを呼ばなかった。  呼びたくなかった。  呼べばきっとみんな言うんだ。よくここまで我慢したね。痛くないの? 痛まないの? 痛いと思えないの? と。  そんなのは厭だ。だからわたしはいつも通り、普通の表情をして座り込んでいた。誰にも気付かせてやるもんかって、ひどく意固地になっていた。  お母さまにも、お父さんにも、先生にも、友達にも、誰にも気付かせない。せめてまわりの人たちに藤乃は普通なんだと思わせなければ、わたしはきっと潰れてしまう。  その時、ぽん、と肩に手をかけられた。  感覚はなかったけれど、耳元で音がしたんだ。  ふりかえると、そのひとが立っていた。  わたしの気もしらないで優しい目をしていたそのひとへの第一印象は、憎らしいだったと思う。 「痛いの?」  そのひとは、信じられない言葉で挨拶をしてきた。  絶対にわかるはずのない足の傷を、どうして。  わたしは首をふった。認めてなどやるもんかって意固地になってた。  そのひとは体操服についたわたしの名札を見て、わたしの名前を口にした。  そうしてわたしの挫いた足に触れて、顔をしかめる。  ああ、きっと厭な事を言うんだ、とわたしは目をつぶった。  痛いの、とか痛まないの、とか。そういう、普通の感覚を持ってるひとが無神経に口にする心配なんか、わたしは聞きたくなかったから。